この文書ではOracle Blockchain Platform(OBP)でREST APIからChaincodeを実行する方法を説明します。

この文書は、2021年8月時点での最新バージョン(21.2.1)を元に作成されています。



0. 前提の理解

0.1 Oracle Blockchain PlatformのREST Proxy

OBPはパーミッション型のブロックチェーンプロトコルであるHyperledger Fabricをベースとしたブロックチェーンプラットフォームです。

Hyperledger FabricにおけるChaincodeは、いわゆるスマートコントラクトとして位置づけられ、ブロックチェーン台帳に対して実行されるビジネスロジックです。アプリケーションからChaincodeを実行する場合は通常、Fabric SDKをアプリケーションに組み込んだうえで、SDKの機能を利用して実行します。この際にHyperledger Fabricネットワークのユーザーアイデンティティが認証・認可に使用され、そのため、アプリケーション側に秘密鍵と証明書を保持しておく必要があります。

OBPでは、アプリケーションとChaincodeを中継する役割を持つREST Proxyというコンポーネントを独自に備えています。REST ProxyにはFabric SDKが組み込まれており、また、Hyperledger Fabricネットワークのユーザーアイデンティティを保持しています。これにより、アプリケーションはREST APIを呼び出すことで、REST Proxyを介してChaincodeを実行できます。この際、アプリケーションはREST Proxyに対して、Oracle Cloudのユーザーアカウント(IDCSユーザー)を用いて認証、認可されます。

REST Proxyの説明

0.2 このチュートリアルでの構成

このチュートリアルの例では、 Founder2104 というFounderインスタンス(=Organization)と、 Member2104 というParticipantインスタンス(=Organization)から成るブロックチェーン・ネットワークとなっています。

また、 ch1 という名前のChannelに、OBPに付随するサンプルのひとつであるBalance TransferのChaincodeが、 BT-Sample という名前でデプロイされています。

任意のChannelで任意のChaincodeを基本的には同一の手順で実行できます。

0.3 使用するクラウドユーザーアカウント

前述の通り、REST Proxyを経由してREST APIでChaincodeを実行する際、REST Proxyは実行者をIDCSユーザーとして認証、認可の検証を行います。リクエストを行うユーザーは以下の条件を満たす必要があります。

  • IDCSユーザーとして存在している(IDCSとフェデレーションされていないOCI IAMアカウントは利用不可)
  • IDCSユーザーあるいは所属するIDCSグループに、当該OBPインスタンスに対するREST_CLIENTのIDCS権限が付与されている

また、認証にはBASIC認証方式およびトークン認証方式が使用できます。チュートリアルの例ではBASIC認証方式を用います。トークン認証方式の利用方法については、公式ドキュメントのトークン認証の説明箇所を確認ください。

0.4 使用されるHyperledger Fabricのトランザクション実行者アイデンティティ

REST Proxyを経由してChaincodeを実行した場合、トランザクション実行者となるHyperledger Fabric(HLF)のアイデンティティはデフォルトでは {インスタンス名=Organization名}_defaultuser というIDのものが用いられます。

別のHLFアイデンティティを用いたい場合、また、REST APIを呼び出すクラウドユーザーアカウントによってHLFアイデンティティを使い分けたい場合は、こちらのチュートリアルを参照ください。

0.5 QueryとTransactionのAPIエンドポイントの違い

OBPにはChaincodeの実行のための2種類のREST APIエンドポイントが存在します。ひとつはQueryエンドポイントで、もうひとつがTransactionエンドポイントです。

Hyperledger Fabricのトランザクションは①クライアントアプリケーションからPeerにTransaction Proposalメッセージ(Chaincodeの実行依頼)を送り、Peerが指定されたChaincodeを実行したうえでその結果に署名をつけて返却する(Endorsement)、②クライアントアプリケーションがトランザクション成立に必要なEndorsementを集めたのち、Ordering ServiceにTransactionメッセージを送り、Ordering Serviceが受け取ったTransactionを格納したブロックを生成する、③Ordering ServiceからPeerノードにブロックが配布され、PeerノードはTransactionを検証したのちに台帳に反映する、という3フェーズのフローになっています。

REST APIのQueryエンドポイントでは、このうち①に含まれるTransaction ProposalメッセージのPeerへの送付と、Peerから返却されたChaincode実行結果のアプリケーションへの返却のみが行われます。従って、Queryエンドポイントでは台帳の更新は行われず、Chaincodeの実行結果のみを取得できます。そのため、主に台帳内容のクエリに利用することが想定されています。

REST APIのTransactionエンドポイントでは、①のTransaction Proposalの送付およびEndorsementの収集、②のTransactionの送付、および(同期実行オプションを指定した場合)③のPeerノードでの検証・反映結果の取得を含めた一連の処理が行われます。従って、TransactionエンドポイントではChaincodeの実行結果に基づいて台帳の更新が行われ、また、トランザクションの実行記録も残ります。

このチュートリアルではQueryエンドポイントとTransactionエンドポイントそれぞれについて説明していきます。

1. REST ProxyのURLの特定

REST APIのリクエストを送る際に必要になる、OBPインスタンスのREST ProxyのURLを確認しておきます。

  1. Oracle Blockchain Platformのサービス・コンソールを開きます。

  2. Nodesのページを開くと、インスタンスのノードとコンポーネントの一覧が表示されます。REST Proxyの行に記載されているURLをコピーし、どこかに保存しておきましょう。

    REST ProxyのURLの確認

2. Queryエンドポイントの実行

以下では必須あるいは主要なパラメータと、ごく基本的な使い方の例を示します。詳細は公式ドキュメントを参照ください。

2.1 主要パラメータ等

  • エンドポイント: {REST ProxyのURL}/api/v2/channels/{CHANNEL名}/chaincode-queries
    • CHANNEL名 …対象のChaincodeを実行するChannel名
  • リクエストヘッダ:
    • 'Content-Type: application/json'
    • Authorisationヘッダ
  • リクエストボディ:
    • chaincode :string …対象のChaincode名
    • args :string …Chaincodeに渡す引数

2.2 実行例

cURLでの実行例を示します。

  • リクエストの例
      curl --request POST 'https://hoge.blockchain.ocp.oraclecloud.com:7443/restproxy/api/v2/channels/ch1/chaincode-queries' /
      --header 'Content-Type: application/json' /
      --user foo.bar@fuga.com:password1234
      --data-raw '{
          "chaincode":"BT-Sample",
          "args":["query","a"]
      }'
    
  • レスポンスボディの例
      {
          "returnCode": "Success",
          "error": "",
          "result": {
              "payload": 100,
              "encode": "JSON"
          }
      }
    

3. Transactionエンドポイントの実行

以下では必須あるいは主要なパラメータと、ごく基本的な使い方の例を示します。詳細は公式ドキュメントを参照ください。

3.1 主要パラメータ等

  • エンドポイント: {REST ProxyのURL}/api/v2/channels/{CHANNEL名}/transactions
    • CHANNEL名 …対象のChaincodeを実行するChannel名
  • リクエストヘッダ:
    • 'Content-Type: application/json'
    • Authorisationヘッダ
  • リクエストボディ:
    • chaincode :string …対象のChaincode名
    • args :string …Chaincodeに渡す引数
    • sync :boolean(オプショナル) …デフォルトはfalse。trueを指定した場合トランザクションを同期で、falseを指定した場合トランザクションを非同期で実行する。

3.2 実行例

cURLでの実行例を示します。

  • リクエストの例
      curl --request POST 'https://hoge.blockchain.ocp.oraclecloud.com:7443/restproxy/api/v2/channels/ch1/chaincode-queries' /
      --header 'Content-Type: application/json' /
      --user foo.bar@fuga.com:password1234
      --data-raw '{
          "chaincode":"BT-Sample",
          "args":["invoke","a", "b", "10"],
          "sync": true
      }'
    
  • レスポンスボディの例
      {
          "returnCode": "Success",
          "error": "",
          "result": {
              "txid": "56925cfd08b645754230910c86f09031753db48282a60a8ddf0d756266caedad",
              "payload": "move succeed",
              "encode": "UTF-8"
          }
      }
    

4. 参考リンク

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