0. 概要

本テクニカルTipsは、OCI上に構築するHPC/GPUクラスタのリソース管理・ジョブ管理を Slurm で効果的に運用する際に有益な、以下のテクニカルTipsを解説します。

  1. Prolog/Epilog セットアップ方法
  2. メンテナンスを考慮した計算/GPUノードの ステータス 変更方法
  3. ヘテロジニアス環境下のパーティションを使った計算/GPUノード割り当て制御

これらのTipsは、全て OCI HPCテクニカルTips集Slurmによるリソース管理・ジョブ管理システム構築方法 に従って構築された Slurm 環境を前提に記載します。


1. Prolog/Epilogセットアップ方法

1-0. 概要

本Tipsは、ジョブ実行の前後で Slurm が自動的にスクリプトを実行する機能であるProlog/Epilogをセットアップする方法を解説します。

ここでは、PrologとEpilogで以下の処理を適用することを想定し、そのセットアップ方法を解説します。

[Prolog]

以下のスクリプトを使用し、直前に走っていたジョブの残したLinuxカーネルのキャシュをジョブ実行前に開放します。

#!/bin/bash

log_file=/var/log/slurm/clean_memory.log

/bin/date >> $log_file
/bin/echo "Before" >> $log_file
/bin/free -h >> $log_file

/bin/sync; /bin/echo 3 > /proc/sys/vm/drop_caches

/bin/echo >> $log_file
/bin/echo "After" >> $log_file
/bin/free -h >> $log_file

[Epilog]

以下のスクリプトを使用し、完了したジョブがNVMe SSDローカルディスク領域のファイルシステム(マウントポイント /mnt/localdisk )に残したファイルをジョブ完了直後に全て削除します。

#!/bin/bash
/bin/rm -rf /mnt/localdisk/*

1-1. セットアップ手順

Slurmマネージャと全ての計算/GPUノードの /opt/slurm/etc/slurm.conf に以下の記述を追加します。

PrologFlags=Alloc
Prolog=/opt/slurm/etc/scripts/prolog.d/*
Epilog=/opt/slurm/etc/scripts/epilog.d/*

次に、全ての計算/GPUノードのopcユーザで以下コマンドを実行し、Prolog/Epilogのスクリプトを格納するディレクトリを作成します。

$ sudo mkdir -p /opt/slurm/etc/scripts/prolog.d
$ sudo mkdir -p /opt/slurm/etc/scripts/epilog.d

次に、全ての計算/GPUノードで、 1-0. 概要 に記載のProlog/Epilog用スクリプトをそれぞれ 10_clean_memory.sh10_clean_nvme.sh として先に作成したディレクトリに格納し、以下のようにスクリプトファイルのオーナーとパーミッションを設定します。

$ ls -l /opt/slurm/etc/scripts/*/
/opt/slurm/etc/scripts/epilog.d/:
total 4
-rwxr-xr-x 1 root root 50 Jul 12 17:12 10_clean_nvme.sh

/opt/slurm/etc/scripts/prolog.d/:
total 4
-rwxr-xr-x 1 root root 271 Jul 17 11:43 10_clean_memory.sh
$

なお、このディレクトリに2桁数字の接頭辞を持つスクリプトを複数格納することで、その数字の順番にスクリプトを実行することが出来ます。

次に、Slurmマネージャのopcユーザで以下のコマンドを実行し、 slurm.conf ファイルの変更を反映、その結果を確認します。

$ sudo su - slurm -c "scontrol reconfigure"
$ sudo su - slurm -c "scontrol show config" | grep -i -e ^epilog -e ^prolog | grep -v -i time
Epilog[0]               = /opt/slurm/etc/scripts/epilog.d/*
Prolog[0]               = /opt/slurm/etc/scripts/prolog.d/*
PrologFlags             = Alloc
$

1-2. 稼働確認

以下コマンドを全ての計算/GPUノードのopcユーザで実行し、テスト用のファイルを /mnt/localdisk ディレクトリに作成します。

$ sudo touch /mnt/localdisk/test.txt

次に、以下コマンドをSlurmクライアントのopcユーザで実行し、テストジョブを実行します。

$ srun -n 2 -N 2 hostname
inst-xxxxx-x9-ol89
inst-yyyyy-x9-ol89
$

次に、以下コマンドを全ての計算/GPUノードのopcユーザで実行し、先に作成したテスト用のファイルが削除されていること、Linuxカーネルのキャッシュを開放した際のログが記録されていることで、想定通りにProlog/Epilogのスクリプトが実行されたことを確認します。

$ ls /mnt/localdisk/
$ tail /var/log/slurm/clean_memory.log
Wed Jul 17 16:53:14 JST 2024
Before
              total        used        free      shared  buff/cache   available
Mem:          503Gi       6.3Gi       494Gi        29Mi       2.0Gi       493Gi
Swap:         7.6Gi          0B       7.6Gi

After
              total        used        free      shared  buff/cache   available
Mem:          503Gi       6.3Gi       496Gi        29Mi       353Mi       494Gi
Swap:         7.6Gi          0B       7.6Gi
$

2. メンテナンスを考慮した計算/GPUノードのステータス変更方法

2-0. 概要

HPC/GPUクラスタは、運用中に計算/GPUノードでハードウェア障害が発生したりソフトウェアのアップデートを行う必要が生じると、当該ノードへのジョブ割り当てを一時的に停止するオフライン化を実施する必要が生じます。

Slurm は、 Slurmd が動作する計算/GPUノードのステータスに於いて、以降のジョブを受け付ける状態の IDLE と受け付けない状態の DRAIN が存在し、これを管理者が明示的に切り替えることで、この運用要件を実現することが可能です。
具体的には、以下のステップでこれを実施します。

  • ステータスを DRAIN に変更
  • 実行中のジョブが存在する場合はこれが終了するまで待機
  • メンテナンス作業を実施
  • ステータスを IDLE に変更
  • 新たなジョブが割当てられることを確認

本Tipsは、前述の運用要件を念頭に、計算/GPUノードのステータスを変更する方法を解説します。

2-1. 計算/GPUノードのステータスをオフラインに変更

本章は、ステータスが IDLE または ALLOCATED の計算/GPUノードを DRAIN に変更し、新たなジョブが以降割り当てられないオフラインの状態に変更する方法を解説します。

Slurmマネージャのopcユーザで以下のコマンドを実行し、対象の計算/GPUノードのステータスが IDLE または ALLOCATED であることを確認します。
ここで、計算/GPUノードのホスト名(inst-xxxxx-x9)は、自身の環境に合わせて修正します。

$ sudo su - slurm -c "scontrol show node inst-xxxxx-x9" | grep -e NodeName -e State
NodeName=inst-xxxxx-x9 Arch=x86_64 CoresPerSocket=18 
   State=ALLOCATED ThreadsPerCore=1 TmpDisk=10000 Weight=1 Owner=N/A MCS_label=N/A
$

次に、Slurmマネージャのopcユーザで以下のコマンドを実行し、対象の計算/GPUノードのステータスを変更、ステータスが IDLE+DRAIN または ALLOCATED+DRAIN に変更されたことを確認します。
ここで、計算/GPUノードのホスト名(inst-xxxxx-x9)は、自身の環境に合わせて修正します。
また、 reason= の指定は、ステータスを変更する理由を適宜指定します。

$ sudo su - slurm -c "scontrol update nodename=inst-xxxxx-x9 state=drain reason=maintenance"
$ sudo su - slurm -c "scontrol show node inst-xxxxx-x9" | grep -e NodeName -e State
NodeName=inst-xxxxx-x9 Arch=x86_64 CoresPerSocket=18 
   State=ALLOCATED+DRAIN ThreadsPerCore=1 TmpDisk=10000 Weight=1 Owner=N/A MCS_label=N/A
$

ステータスが ALLOCATED+DRAIN の場合は、実行中のジョブが終了するまで待機します。

次に、対象の計算/GPUノードのopcユーザで以下のコマンドを実行し、対象の計算/GPUノードで slurmd を停止します。

$ sudo systemctl stop slurmd

2-2. 計算/GPUノードのステータスをオンラインに変更

本章は、メンテナンス作業が終了したことを想定し、計算/GPUノードのステータスを DRAIN から IDLE に変更することで、新たなジョブが割り当てられるオンラインの状態にする方法を解説します。

対象の計算/GPUノードのopcユーザで以下のコマンドを実行し、 slurmd を起動します。

$ sudo systemctl start slurmd

次に、Slurmマネージャのopcユーザで以下のコマンドを実行し、対象の計算/GPUノードのステータスが DOWN+DRAIN であることを確認します。
ここで、計算/GPUノードのホスト名(inst-xxxxx-x9)は、自身の環境に合わせて修正します。

$ sudo su - slurm -c "scontrol show node inst-xxxxx-x9" | grep -e NodeName -e State
NodeName=inst-xxxxx-x9 Arch=x86_64 CoresPerSocket=18 
   State=DOWN+DRAIN ThreadsPerCore=1 TmpDisk=10000 Weight=1 Owner=N/A MCS_label=N/A
$

次に、Slurmマネージャのopcユーザで以下のコマンドを実行し、対象の計算/GPUノードのステータスを変更、ステータスが IDLE となっていることを確認します。
ここで、計算/GPUノードのホスト名(inst-xxxxx-x9)は、自身の環境に合わせて修正します。
なお、この計算/GPUノードで実行可能なジョブが待機していた場合、ジョブが即座に実行を開始してステータスが ALLOCATED となる場合があります。

$ sudo su - slurm -c "scontrol update nodename=inst-xxxxx-x9 state=idle"
$ sudo su - slurm -c "scontrol show node inst-xxxxx-x9" | grep -e NodeName -e State
NodeName=inst-xxxxx-x9 Arch=x86_64 CoresPerSocket=18 
   State=IDLE ThreadsPerCore=1 TmpDisk=10000 Weight=1 Owner=N/A MCS_label=N/A
$

3. ヘテロジニアス環境下のパーティションを使った計算/GPUノード割り当て制御

3-0. 概要

HPC/GPUクラスタは、構成する計算/GPUノードが異なるリソースを有するヘテロジニアスな環境となることがあります。
この際、実行するジョブが想定するリソースを持つ計算/GPUノードで実行されることを保証する必要がありますが、 Slurm のパーティションに割り当てられる計算/GPUノードを適切に指定することで、この運用要件を実現することが可能です。

本Tipsは、前述の運用要件を念頭に、ジョブを投入するパーティションを使い分けることで想定する計算/GPUノードに適切にジョブが割当てられる Slurm 環境を構築する方法を解説します。

構築する Slurm 環境は、以下とします。

パーティション名 割当てられる計算/GPUノード名 デフォルトパーティション(※1)
nps1 inst-aaaaa-x9 inst-bbbbb-x9 Yes
nps2 inst-ccccc-x9 inst-ddddd-x9 No

※1)パーティション名を指定せずに投入したジョブが割当てられるパーティションです。

3-1. slurm.conf修正

本章は、本Tipsの想定する運用要件を実現するよう slurm.conf を修正します。

作成する slurm.conf は、 NodeName 行と PartitionName 行を以下に修正します。

NodeName=inst-aaaaa-x9,inst-bbbbb-x9,inst-ccccc-x9,inst-ddddd-x9
PartitionName=nps1 Nodes=inst-aaaaa-x9,inst-bbbbb-x9 Default=YES MaxTime=INFINITE State=UP
PartitionName=nps2 Nodes=inst-ccccc-x9,inst-ddddd-x9 MaxTime=INFINITE State=UP

3.2. slurm.conf修正の反映

本章は、先に修正した slurm.conf を反映します。

Slurmマネージャ、Slurmクライアント、及び計算/GPUノードで、先に修正した slurm.conf/opt/slurm/etc ディレクトリにコピーします。

次に、Slurmマネージャのopcユーザで以下のコマンドを実行し、修正した slurm.conf の内容を反映します。

$ sudo su - slurm -c "scontrol reconfigure"

次に、Slurmマネージャのopcユーザで以下のコマンドを実行し、修正した内容が反映されていることを確認します。

$ sinfo
PARTITION AVAIL  TIMELIMIT  NODES  STATE NODELIST
nps1*        up   infinite      2   idle inst-aaaaa-x9,inst-bbbbb-x9
nps2         up   infinite      2   idle inst-ccccc-x9,inst-ddddd-x9
$

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